5月の風が吹き渡る夕暮れどきの神宮球場。二階スタンド席からはグラウンド内が一望できた。右手正面にはライトスタンドが見える。試合開始に備えて、ツバメ軍団が「応燕」の準備をしている。交流戦が始まっていた。ヤクルトファンも、ロッテファンもみな試合が始まるのを、ワクワクしながら心待ちにしていた。 そんな観客たちの中にスーツ姿の男性の姿があった。彼は、1991(平成3)年、17歳のときにツバメ軍団に入った。野村克也監督の2年目。ライトスタンドには常に名物団長・岡田正泰さんの姿があり、日本中がバブル景気に浮かれていた頃のことだった。 しかし、今年5月26日の対日本ハム戦を最後に、彼はツバメ軍団を引退した。31年が経過した今、高校生だった青年はもうすぐ50代を迎えようとしていた。通い慣れた神宮球場ではあったが、この日、彼は実に31年ぶりに「一観客として」、ヤクルトナインの雄姿を見守ることとなったのである