“親中”“親韓”をモチーフにした童話 隣国に対する憎悪の言葉が、街頭にもメディアにも溢れかえっている。経済関係が安定しているアジアの大国に対しても、嫌悪感を露わにする日本人は少なくない。国家の体制や政策、元首の言動への反発・反感を、その国に暮らす人々にも向けることが妥当でないことは明らかだ。 こうしたいびつな対外関係のさなかに、ぜひ読んでもらい文学作品がある。作者は新美南吉。だれもが一度は読んだことがある、「ごん狐」や「手袋を買いに」の童話作家の作品だ。 動物の自己犠牲や母子の情愛を描いた新美南吉が、“親中”や“親韓”をモチーフにした童話を書いていたとは意外に思われるかもしれない。しかもそれらの作品が書かれたのは、令和のいま以上に、他民族への差別意識、排外感情が強い時代だったのである。 中国人に助けられた日本兵の話 新美南吉は1913年、愛知県半田町(現在の半田市)に、畳屋を営む父渡辺多蔵