源氏は女と朗らかに戯談《じょうだん》などを 言い合っているうちに、 こうした境地も悪くない気がしてきた。 頭中将は源氏がまじめらしくして、 自分の恋愛問題を批難したり、 注意を与えたりすることのあるのを口惜《くちお》しく思って、 素知らぬふうでいて源氏には隠れた恋人が幾人かあるはずであるから、 どうかしてそのうちの一つの事実でもつかみたいと常に思っていたが、 偶然今夜の会合を来合わせて見た。 頭中将はうれしくて、こんな機会に少し威嚇《おど》して、 源氏を困惑させて懲りたと言わせたいと思った。 それでしかるべく油断を与えておいた。 冷ややかに風が吹き通って夜のふけかかった時分に 源氏らが少し寝入ったかと思われる気配を見計らって、 頭中将はそっと室内へはいって行った。 自嘲《じちょう》的な思いに眠りなどにははいりきれなかった源氏は 物音にすぐ目をさまして人の近づいて来るのを知ったのである。 典