現代詩に関心のある人なら、戦後に多くの詩集などを発行した「書肆ユリイカ」と社主伊達得夫の名前を聞いたことがあるかもしれない。本書『回想の伊達得夫』(青土社)は、伊達とも親交のあった詩人・弁護士の中村稔さんが、伊達得夫の人間像に迫った本である。 『二十歳のエチュード』出版の経緯 本書の表紙には、少し大きな文字で、こう書かれている。引用しよう。 「戦後の混乱期、神田の露地裏の木造二階建てのビルにもぐりこみ、自死した原口統三の遺著を出版して出発、不遇の稲垣足穂を愛しながら、窮乏に耐え、無名の若い詩人たちの詩集を次々に刊行し、戦後詩が始まる場所を確立した、特異な出版人・伊達得夫。彼の優しい心と陰影に富んだ人格の謎、不滅の業績を、親交のあった著者が情感豊かに解き明かす」 簡にして要を得た本書の紹介文だ。 本書は書肆ユリイカ時代の伊達得夫について記述した第一部と、生い立ちや旧制福岡高校・京都帝国大学時