🌸天子が新しくお立ちになり、時代の空気が変わってから、 源氏は何にも興味が持てなくなっていた。 官位の昇進した窮屈《きゅうくつ》さもあって、 忍び歩きももう軽々しくできないのである。 あちらにもこちらにも待って訪《と》われぬ恋人の悩みを作らせていた。 そんな恨みの報いなのか源氏自身は中宮の御冷淡さを 歎《なげ》く苦しい涙ばかりを流していた。 位をお退《ひ》きになった院と中宮は 普通の家の夫婦のように暮らしておいでになるのである。 前《さき》の弘徽殿《こきでん》の女御《にょご》である新皇太后は ねたましく思召《おぼしめ》すのか、 院へはおいでにならずに当帝の御所にばかり行っておいでになったから、 いどみかかる競争者もなくて中宮はお気楽に見えた。 おりおりは音楽の会などを世間の評判になるほど派手にあそばして、 院の陛下の御生活はきわめて御幸福なものであった。 ただ恋しく思召すのは内裏《だいり