七回目のベルで受話器を取った君/名前を言わなくても/声ですぐ分かってくれる…。宇多田ヒカルさんの『Automatic』は過去に何度も聴いたが、歌詞を精読したのは詩人で評論家、吉本隆明さんの著書を通してである◆5回目でも9回目でもない〈七回目としたところに、優れた着想を感じさせる〉とある(毎日新聞社『現代日本の詩歌』)◆安保闘争からオウム事件、この震災に至るまでの半世紀を「大衆」に寄り添い、切れば血の出る「現在」に正対してきた人には、時代の流行歌も興味の尽きない素材であったのだろう。吉本さんが87歳で死去した◆難解な評論を咀(そ)嚼(しゃく)できず、前掲の書物を除けば歯を腫らしながら巻なかばで降参を繰り返してきた身にとっては、近寄りがたい偉大な山岳のような人である。はなはだ頼りない愛読者ではあったが、それでも座右の銘にしてきた詩の一節がある。“口舌の徒”たるわが半生を省みては口ずさんだその2