ボクと妻、6歳になる息子、そしてカブトムシ 三人が三人と一匹になったのはまだ日差しがそれほど強くない頃だった 居間でテレビを見ていると、息子がさっと立ち上がり一瞬視界を遮って妻のほうに駆けていく 「カブトムシ見に行ってくる」律儀な報告をすませると今度は玄関の方へ早足で向かう 今日だけで三度目の光景 こっそりと音の去った方向を覗き見る そこにはキラキラと目を輝かせてやまない、カブトムシに恋をしてしまった少年の姿を見つけた その楽しげな息子の姿を見ていると、ふと昔の自分を思い出す ボクもカブトムシを飼っていた 小学校に入る前のことだったと思う 20年以上も昔のことだ、ボクはまだ幼く、その頃の全てを憶えてはいないのだろうが 大きなカブトムシと、笑みをたたえる幼いボク その光景が強く強く、ボクの記憶に焼きついている 両親を亡くしたボクは祖父に育てられた 祖父は決して自分のことを父と呼ばせることはな