林檎を買おうと、果物屋に行った。 ところが、並んでいる林檎はみんな、どれもこれも、虫に食われていた。 よく見てみると、虫の食った痕ではない。人間の歯形だ。 この林檎には一つ。あの林檎には二つ。あの林檎はあちこち囓られて、もう原型を留めていなかった。 いらっしゃい、どれでも一つ千二百円、お好きなのを選んでって、と、果物屋のおやじは言う。 囓りかけの林檎じゃなくて、まともなのは置いてないのか、と、私は聞いてみる。値段はともかく、そっちの方がもっと問題だ。 何をおっしゃいます、みんなまともな、おいしそうな林檎じゃありませんか、何か問題でもあるのですか、と、店主はむっとした表情で聞き返す。 おたくも良さそうなのがあったら、とりあえず囓ってみなさい、と笑って答える店主を、私は怪訝そうに見つめていた。 後ろから、若い男がやってきて、例のかじりかけの林檎を品定めし始めた。 自分と同い年くらいだが、自分と
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