おれが嫌いなものは世の中にいっぱいあるが、その中でも特に嫌いなもののひとつがきゅうり。物心つくまえはべつに嫌いな野菜ではなかった。でも小学校中学年以降は明確に嫌いになった。なにしろあれは匂いが悪い。味も悪い。こう書いていると山岡士郎あたりが一瞬だけしゃしゃり出てきて「本物のきゅうりってやつを見せてやる、じゃ一週間後に」とか言ってすぐさま消えそうだが、東京育ちの味覚の野蛮人が田舎モンをなめるなという話だ。おれが本物のきゅうりを食ったことがないとでもいうのか。そういうのはひととおり食った。あれは確かにまずい食い物ではない。だがおれに対してそれが安定供給されていたのは少年時代の黄金のような時間、両親の人生模様に関心を持つこともなく騒々しく遊びまわっていたあの頃は、確かにおれにとって黄金にも値する時間といってよかろうが、まあそれは脱線だから置いて、とにかくにもあの頃に限った話だ。いまはあの頃ではな