トタンがセンベイ食べて 春の日の夕暮は穏かです アンダースローされた灰が蒼ざめて 春の日の夕暮は静かです 吁(ああ)! 案山子(かかし)はないか――あるまい 馬嘶(いなな)くか――嘶きもしまい ただただ月の光のヌメランとするまゝに 従順なのは 春の日の夕暮か ポトホトと野の中に伽藍(がらん)は紅く 荷馬車の車輪 油を失ひ 私が歴史的現在に物を云へば 嘲る嘲る 空と山とが 瓦が一枚 はぐれました これから春の日の夕暮は 無言ながら 前進します 自(みづか)らの 静脈管の中へです 今宵月はいよよ愁(かな)しく、 養父の疑惑に瞳を(みは)る。 秒刻(とき)は銀波を砂漠に流し 老男(らうなん)の耳朶(じだ)は螢光をともす。 あゝ忘られた運河の岸堤 胸に残つた戦車の地音 銹(さ)びつく鑵の煙草とりいで 月は懶(ものう)く喫つてゐる。 それのめぐりを七人の天女は 趾頭舞踊しつづけてゐるが、 汚辱に浸る