以下の原稿の前半は、2009年、銀座の画廊で開催された「名取洋之助写真展」のパンフレットに解説として掲載されたものです。 ●グラフィックデザインは戦争が作った 現在の消費文化を支える要素として、アートディレクションは欠かせない。ポスターデザインから雑誌のレイアウト、CDのジャケットにいたるまで、写真とテキストをいかに効果的に見せるかーーこの技術のよしあしで商品の売り上げは大きく異なってくる。 それでは、日本のアートディレクションは、いったいいつ確立したのだろうか。意外にも戦時中というのがその答えだ。『NIPPON』と『FRONT』という2大雑誌がこの国のビジュアルデザインを作ったのである。 雑誌『NIPPON』は昭和9年(1934)10月20日に創刊された。出版元は日本工房。ドイツ留学から帰国した名取洋之助が組織した会社である。名取は常々「日本がゲイシャやフジヤマだけでない近代国家であるこ