著: 野村由芽 この街に暮らせる時間は人生のうちできっと長くない。いつか思い出すたびに、幸運な記憶として、こころに街の気配やにおいをうかべるだろう。目をほそめて、かすかに見たことを覚えている夢のようなひとこまを今生きている。わたしにとって幡ヶ谷は、そういう街なんじゃないかと思うことがある。 建物や店の移り変わりが激しい街だとか、若い時分だけに住むのが楽しいたぐいの街だとか、そういうことではない。住民の年齢の幅も広く、商店街を一本入れば、幼稚園やスポーツセンターがあってのどかな雰囲気だ。森や林があるわけではないけれど、街が青々しいのは、季節の訪れを知らせる花が次々に咲く西原緑道の存在も大きいだろう。緑道にブランコがあるのもすきだ。おもちゃのような乗り物がだいすきで、ときどき遊具の値段を調べている。ちなみにブランコは50万円ぐらいで買うことができるらしい。 18歳まで栃木県宇都宮市で育ち、大学