世界を変えたアメリカ同時多発テロの前後、「ぼく」が出会ったちょっぴり不思議な人々……。ニューヨークの空気が息づく、珠玉の連作短編小説集。 2001年から2003年にかけて、工藤千夏がニューヨークから日本に送って、湯の国ウェブに好評連載。2016年8月の「珈琲屋さんの朗読会」のテキストととして、大幅加筆の上、上梓。 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 『どこか、あたたかい場所へ』より「朝の哲学者」冒頭 coffeeという単語が、どうしても通じない。最初の音を「カ」にしてみたり、「コ」にすぼめてみたり、あれこれ試行錯誤してみるのだが、たいていの店員はチッと舌打ちして、だから外人はいやなんだよねという顔をする。そんな経験が度重なって、コーヒーを注文するときには必ず緊張するという悪循環が生じ、ますます通じない。 コーヒーぐらいでおたおたしているようだから、ぼくの性格は、およそアメリカ暮らしには向い