ポルノグラフィに対する言語行為論アプローチ∗ 江口聡 『現代社会研究科論集』第 1 号、2007、pp. 23-38 掲載の原稿。 1 問題設定 国内のジェンダー論・セクシュアリティ論に大きな影響を持つジュディス・バトラーの『触発する言葉』 (Butler, 1997) *1 は、英国の哲学者 J. L. オースティンの「言語行為論」(オースティン, 1978) を積極的に援用あ るいは「脱構築」し、憎悪表現、ポルノグラフィなどの社会的・法的問題を扱っている。しかし私の読みによ れば、このバトラーの解釈は多くの誤りを含んでおり、重大な問題がある*2 。 ここでは、残念ながらバトラーの曖昧で難解な*3 議論を追うことはできない。しかしバトラーの議論全体 は、レイ・ラングトンの論文 (Langton, 1993) のオースティン解釈に多くを負っており*4 、そしてラングトン のオースチン解釈