非常な幸運だった。私は仮眠中に震度7の地震に遭い、目が覚めた。完全に無防備だったことへの恐怖が今も体の底でわだかまっている。家具がめちゃくちゃになってしまったが、家そのものの倒壊はなかった。家内とともに駆けつけた幼稚園も無事で、けが人はなく、四歳の長男をすぐに連れ帰ることができた。その後、テレビのリアルタイム中継で、津波のすさまじさを目の当たりにした。我が家から車で一時間の所にある街の惨状に言葉を失った。さらには福島原子力発電所の建屋が爆発する映像を見て、咄嗟(とっさ)に何も考えられない、感情が麻痺(まひ)するほどの衝撃を味わった。一昨年、とある近未来を描いたシリーズ小説で、「日本が滅んだ理由は、戦争や経済衰退ではなく、津波で原子炉が破損したせいだ」と書いた。ありそうでない架空のアイディアとして考え出したものだが、その可能性があったことを、こうして思い知らされるとは想像もしていなかった。