深くは考えなかったが、どこか心に引っ掛かっていた。 フランスの小説家アルベール・カミュが記した『シーシュポスの神話』。神を欺いた罰によってシーシュポスは大きな岩を山頂に押し上げていくのだが、到達するとその岩は転げ落ちてしまう。男は再び岩を山頂に押し上げ、また岩が転げ落ちるという繰り返し。カミュの本を読みながら、シーシュポスと自分を重ねていた。 「まあ、不器用なレスラーの典型ですからね」 電気通信工学を勉強する前は、英語習得を頑張った時期もあった。何かに取り組んで自分のなかで「到達」したらまた違うことをやる。友人の目には、そう見えていた。だが裏を返せば本当にやりたいことが見つかっていないだけ。自分なりに到達すると「これは違う」と分かった。振り出しに戻るのは当然だった。 体を鍛えた先に、プロレスがあった。1年半もかかって1999年10月にデビューを果たした。 ここが一つの山頂だった。これまでと