宝塚歌劇団で屈指の人気を誇った演出家・上田久美子が今春、フリーになった。美しく斬新で、文学性も高いヒット作を次々と生み出してきただけに、退団に衝撃を受けたファンは少なくない。上田が脚本を手がけた朗読劇「バイオーム」が6月に上演され、来春にはフランスへ留学する。籍を残す選択肢もあったが「別の山に1合目から登りたい」と退路を断った。背中を押したのは世の中の風潮への違和感だった。「世界には『ヘドロ』があるのが普通だと、もっと想像していい」と言う。 会社員から転身 就職サイトで宝塚へ 「見た人みんなが『気持ち良かった』『満足』となるものを、書きたいと思わなくなってきました」。退団の経緯を語る表情は、晴れやかだった。 演劇界には、幼いころから憧れて入ったわけではない。京都大を卒業後、製薬会社の事務職を経て、2006年に宝塚歌劇団に入団した。転職したのは、会社員が性に合わなかったから。「行き過ぎた資本