かつて、作家のサマセット・モームが、「世界の十大小説」という本で10人の作家を選んでいる。そのリストは トム・ジョーンズ/ヘンリー・フィールディング 高慢と偏見/ジェイン・オースティン 赤と黒/スタンダール ゴリオ爺さん/バルザック デイヴィット・コパーフィールド/ディケンズ ボヴァリー夫人/ギュスターヴ・フロベール 白鯨/ハーマン・メルヴィル 嵐が丘/エミリー・ブロンテ カラマーゾフの兄弟/フョードル・ドストエフスキー 戦争と平和/レフ・トルストイ というものだった。これらの特徴は、イギリスが4つ、フランスが3つ、ロシアが2つ、アメリカが1つと、どれも国民文学だということだ。19世紀から20世紀半ばまでは国民国家の時代であり、国家一つ一つの単位で国民意識を強化していくというのが文学の大きな任務だった。 しかし、現代の作家を国民文学の枠組みで捉えることはできない。国境を跨ぎ、あるいは移民先