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ブックマーク / kasasora.hatenablog.com (3)

  • とっとーの時間 - 傘をひらいて、空を

    扉のひらく音がした。集中していなかった証拠だ。完全に没入しているとき、その音は聞こえない。いきなり家族が視界に入ってくる。こんな夜中には、はまず来ない。来るのは彼に似て宵っ張りな娘だけだ。 とっとー、とっとーと彼女は言い、椅子によじのぼる。彼はや娘が仕事部屋に入ってきたときのために、デスクの横に椅子を置いている。彼女たちはそれに座る。娘は彼の膝の上に置かれるより、大人のように椅子に座るほうが好きだ。 彼は自分の椅子のレバーを引く。視界が十センチ下降する。彼女はうれしそうにぷしゅうと言う。椅子を低くするのは最初、視線の高さを娘のそれに近づけるためだったのに、今ではどちらかというと彼の芸みたいになっている。円滑に親をやるにはちょっとした芸が必要だ、と彼は思う。フリスビーを取ってくる犬みたいな。わんわん。 わんわん、と彼女は返す。そうして犬の人形を彼のシャツにごしごしとこすりつける。犬はひし

    とっとーの時間 - 傘をひらいて、空を
    simpleplay
    simpleplay 2010/11/09
    きれいです。なんなん。
  • 間がもたないデートと精神的な内臓 - 傘をひらいて、空を

    私が電話に出るなり、あのさ、彼氏とどんな会話する、と彼は訊いた。彼氏によると私はこたえた。相手によって話題は変わる、友だちと何しゃべってんのって訊くのと同じで、具体的な内容を答えられる質問じゃないね。 めんどくせえ女だなあ、今までの誰かひとり適当に見繕って答えてくれってことだよ、空気読め、と彼は言った。なんで私があなたの吐いた空気を読む義務があるのと私は訊いた。彼は楽しそうに笑った。彼は会話の中で軽くやりこめられるのが好きだ。 私は携帯電話を耳に当てたままベッドに寝そべって話す。まずは好きって言うよね。そんなん一秒で終わるだろと彼は言う。二文字じゃん。わかってないなと私は言う。好きにもいろいろバリエーションがあるの。褒めるとか。人によってはなに着ててもまずは褒めてくれる。なにも着てなくても褒める。どうかすると電話に出ただけで「相変わらずかわいいねえ、声がとても」とか言う。 狂ってると彼は言

    間がもたないデートと精神的な内臓 - 傘をひらいて、空を
    simpleplay
    simpleplay 2010/07/18
    きれいに書くなあ。/
  • 私のうつくしい老後 - 傘をひらいて、空を

    友だちとバーゲンに行って、いいだけ買い物をした。私たちはそんな日の夜、油っこいものをべながらビールをぐいぐい飲む。欲望のすべてを肯定する日、と友だちは言う。節約?ノー。ダイエット?ノー! 私たちはそれぞれが買ったサンダルの革細工やワンピースのカットワークがいかにかわいらしいかを話し、黒ビールをいきおいよく空けた。彼女があなたが好きだよねえ、服を選ぶときの三倍くらいの熱意で選んでるよ、と言うので、私はにわかに心配になり、やっぱり私はが好きすぎるよね、今はまあいいけど、年とってから箍が外れて大量のを買ってためこむようになったりしたらどうしよう、と言った。 彼女はにぎやかに笑って、そんなの全然たいしたことない、と言った。私なんか確実に他人に文句つけて歩くおばあさんになっちゃうね。だって今でもいろんなことにすぐ腹が立つから、押さえが利かなくなったら独りでぶつぶつ言いながら近所を歩き回って子

    私のうつくしい老後 - 傘をひらいて、空を
    simpleplay
    simpleplay 2010/07/08
    こういう文章が書けることがすごくうらやましい。嫉妬もできない。
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