いただいたコメントがきっかけで、『絹と明察』を読んでみた。 今回読んでみて、三島由紀夫の精神構造について気づくことがあったので、記しておきたい。 『絹と明察』は、周知のように1954年の近江絹糸の労働争議に材料をとった一種の経済小説である。会社はすべて家族であるという前時代的家族的経営を信条とする社長の駒沢善次郎のキャラクターが、ユーモラスと言うより辛辣に描き出されている。対するに、政財界にフィクサーとして活躍する知識人岡野。この男は、戦前は「聖戦哲学研究所」という右翼団体の一員であったが、戦後はちゃっかりその人脈を使って、巧みに世の中を泳ぎ渡る人物である。 家族的経営のイデオロギーに染まっていた社員たちは、他社に比べて劣悪な雇用条件にも甘んじているが、ちょっとしたきっかけでストライキに突入していく。岡野が偶然出会った青年工員大槻とその恋人弘子のカップルを、社長の駒沢に紹介する。そこで、社