両親による虐待の後に子どもが亡くなった、埼玉県蕨市と奈良県桜井市の事件。いずれも、近所の人たちが戸外に響く物音や会話の内容で異変に気づきながら、幼い命を救うことができなかった。壁越しに、か細い泣き声や親の怒声を聞いた時、私たちはどうすればいいのだろう――。 ◇ 壁に何かがぶつかる大きな音、怒鳴り声や子どもの泣き声――。2006年ごろ、埼玉県蕨市のアパートに住んでいた女性は壁越しに、毎日のようにそんな音を聞いていた。隣に住んでいたのが、両親に虐待を受け、08年2月に4歳で亡くなった新藤力人(りきと)ちゃんだった。 「ふつうのしつけじゃない。あれが虐待じゃなかったら、何が虐待になるのか」 そう感じた女性が相談した先は、アパートを管理する不動産業者だった。「虐待ではないか」。業者は家賃の受け取りのたびに、両親に「ちゃんと面倒みなさい」と注意したが、「悪いことをした子を怒るのは親と