『スーダラ節』という歌が全国的なヒットになったのは一九六一年のことだ。この歌によれば、サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ、ということだった。文字どおりこの気持ちでいた人たちが多かったと同時に、これでいいのか、このままでいいのか、と胸の底のどこかで、不安を感じていた人も多かったのではないか。ひとまずの大目標であった東京オリンピックに向けた急坂を、日本経済は轟音をあげて駆け登っていった。高度成長が始まるにつれて、社会は巨大で強力になるいっぽうで、自分は相対的に小さくなって無力感がつのる、というような時代だった。 それから… 底本:『自分と自分以外──戦後60年と今』NHKブックス 2004年