思考が一方向に抽象化してゆき、 なにか豊かなものが抜け落ちていく 「無痛文明論」 森岡正博著著 トランスビュー(456p)2003.10.5 3800円 なんとも刺激的で大胆な問題提起と、どうにも納得しかねる異和感とを、こんなに感じさせる本を近来読んだことはない。 著者によって名づけられた「無痛文明」とは、「苦しみを遠ざける仕組みがはりめぐらされ、快に満ちあふれた」社会、今日の先進国に姿を現しつつある文明のことをいう。大都市に象徴される快適な環境に囲まれ、金さえあればあらゆる物質的欲望を満たすことができる。物理的にも精神的にも、痛みや苦しみをできるかぎり排除しようとする人工的に管理された社会。 僕たちはそんな社会に生きているけれど、その快適さや快楽を享受しながら、一方で、この豊かさはどこかおかしいんじゃないか、とも感じている。物質的欲望には限りがないばかりか、資本は新しい欲望を次々に自分た