タイルを敷き詰めるパターンは、人類が家を作り始めた直後から壁や床を飾るアートとして使われてきた。しかし、長い間、三角形や四角形などの単純な形を組み合わせた幾何学模様が主流であった。これを劇的に変えたのが、オランダの版画家エッシャーである。 図と地の反転と呼ばれる錯覚がある。図1がその例である。この図は、中央に壷のシルエットが見えたり、向き合った2人の顔が見えたりする。どちらが図形でどちらが背景かがときどき入れ替わるという多義性を持つため、これも錯覚の一種と考えられている。 この錯覚を利用したのが、エッシャーの代表作「空と水Ⅰ」(1938)である。これは、少しずつ形の異なるたくさんのタイルを敷き詰めた作品であるが、いちばん上に置かれた鳥が、下へ向かって少しずつ変化しながらしだいに背景に溶け込み、代わりに背景から別の形のタイルが現れて、やはり下へ向かってしだいにはっきりとした魚の姿となって