水上文 かつて中島梓は『コミュニケーション不全症候群』の中でオタクに向けて言っていた。 ネバーランドから出るべきだと。私たちはピーターパンではないのだと。 もちろん、私たちはピーターパンではない。 そんなことは知っている。言われるまでもない。ピーターパンではないと言われるまでもなく知っているのになおもその幻想を拭い去れないとしたら、たとえばピーターパンを演じる「推し」に魅せられてやまないとしたら、それなくしては生きていかれないように思えるとしたら、一体どうしたらいいのか? オタクと「成熟」の問題――中島梓について 中島梓が『コミュニケーション不全症候群』を出版した1991年、「オタク」は今とはまるで違った形で社会に取り扱われていた。「推し」は受け入られた愛情の形態でもなければ生きるために必要な手段としてみなされることもなかった。『消滅世界』は文字通り消滅していて影も形も見えず、『推し、燃ゆ