私は「残酷な神が支配する」と「一度だけの恋なら」
作家の横山秀夫さんに、文芸を取材してきた記者がロングインタビューをしました。マンガ編集者からのダメだしと向き合った日々、日航機事故への思い、そして近く刊行予定の新作にいたるまで。2017年4月から18年11月にかけて掲載された記事を、まとめてお届けします。 連載「横山秀夫・物語の始まり」 横山秀夫さんに初めて会ったのは15年以上前になる。 警察を管理部門から描いた「陰の季節」で脚光を浴び、話題作を次々に発表していたころだった。 新刊について話を聞き、インタビュー記事にする。警察組織に向けるまなざしの深さや、身を削るようにして書くスタイルに感嘆したものの、それは文芸記者にとって日常的な仕事の一つだった。 横山さんの人と作品について切実に考えるようになったのは、直木賞で落選した「半落ち」をめぐる取材からだ。事実誤認に基づく選考委員の指摘に怒りつつも、まだ直木賞への態度を公式に表明していなかった
──平成の30年間は「20世紀」から「21世紀」に変わる時代でもありました。2001(平成13)年の世紀の切り替わりは、宮部さんにとってどのような意味がありましたか。 私の中で、20世紀と21世紀では大きな違いがあります。具体的には、『模倣犯』(2001年)を機に、ハードな事件を扱った現代ミステリーを書くのがつらくなったのです。作り話とはいえ、この作品では何人もの女性の被害者を登場させ、ひどい殺され方をさせ、自己嫌悪になってしまった。親しい編集者にも、「現代ミステリーはもう書かない」と宣言したほどです。 それは、現実の社会で突拍子もない事件が起きていることとも関係しています。たいした動機もなく大勢の人が殺されてしまう。ありていに申し上げますと、怖くなってしまって。こんなに凄惨な事件が起きているのに、フィクションの世界でも事件をリアルに書くのは嫌だな……と思うようになってしまったのです。
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