部屋 [著]エマ・ドナヒュー どうなるのだろう。もし、見知らぬ男に何年も監禁されたとしたら。男に妊娠させられ、監禁されている部屋で出産するとしたら。誰にも相談できないまま、その赤ん坊を育てるとしたら。男は部屋に鍵をかけ、最低限の食料だけは運んでくる。台所とトイレはあり、電気と水は使える。映りの悪いテレビもあることはある。外界からは完全に遮断され、天窓から見えるのは空だけ。彼女はどんな母親になり、赤ん坊はどんな子どもになるのだろう。 ドナヒューの小説は、こんな緊迫感のある設定から出発している。閉鎖された空間で子育てをする女性と、5歳になったばかりの息子の生活が、息子の視点から語られている。外界をまったく知らず、自分たち以外の人間はテレビでしか見たことがない子どもの語る日常が、意外な喜びや発見に溢(あふ)れている。監禁されているという事情を知らず、母親を独占して過ごす彼の日々は、単調でこそあれ