人類文明の進歩では火の利用や文字の発明,農耕の開始などが大きなエポックとなった。実はもう1つ,現在でもあまり知られていない大きなエポックがあった。祖父母の出現だ。普通の動物は次世代を生み育てれば親世代は死ぬ。かつての人類もそうだったが,進化につれて死亡率が低下,寿命が延び,人類社会の中で祖父母集団が存在感を持つようになった。祖父母は自身の子どもが多くの子をもうけられるようにするとともに,孫の生存率を高め,複雑な社会的つながりを強める。文化的知識の伝承の担い手にもなる。欧州では約3万年前,文化様式が劇的に変化し,高度な武器や芸術が登場するが,その背景には祖父母パワーがあったようだ。 再録:別冊日経サイエンス194「化石とゲノムで探る 人類の起源と拡散」 著者Rachel Caspari セントラル・ミシガン大学の人類学教授。ネアンデルタール人や,現生人類の起源,寿命の進化に焦点を当てた研究を