幼い頃、葬式には、かったるい印象を持っていた。 身近な誰かが亡くなって悲しいのだけれど、葬儀自体はかったるい。お経は、飽きる以前に意味がわからないし、黒い服を着た人がたくさん集まって「大人の話」ばかりしている。線香の匂いは、好きじゃない。そんな記憶が漠然とある。 ぼくの両親はともに関西出身で、1974年に家族で千葉に移った。新居は新興住宅地だったからお年寄りはおらず、近所の葬式に出た記憶がない。親類関係も、たまたま高校受験の年に祖母が亡くなったため、両親は「あなたは来なくていい」とぼくを残して「里帰り」してきた。十代の頃、ぼくが出席した葬儀は、交通事故の犠牲になった級友のものだけだ。 21世紀になって父が亡くなった時には、さすがに送る側として中心的な立場になった。しかし、父は仕事をとっくに引退し特別養護老人ホームで生活する身だったから、集まったのは近親者のみだった。母が選んでおいた葬儀社が