1 葛尾静佳かつらおしずか巡査部長の瞼まぶたが重くなった。 ひどい睡魔に襲われて意識が遠のく。視界が暗くなったところで、運転席の的場公平まとばこうへいに肩を揺さぶられた。 「葛尾さん、ダメッす。寝だらダメッす」 「固かてえごど言うなや。少しだけ眠らせてけろ。五分ぐらいでいいがらよ⋯⋯」 「ダメですって。死んじまうべや」 的場に肩を激しく揺さぶられ、さらに平手で頰を打ぶたれる。 彼は軽く打ったつもりなのだろうが、高校時代はアマチュア相撲に情熱を燃やし、県警では体力を買われて機動隊にもいただけに力が有り余っている。頰の皮膚に高圧電流を流されたような痛みが走った。衝撃で首がねじれ、危うく唇を切りそうになる。 とはいえ、すっきり目は覚めた。的場が携帯ポットに入れたコーヒーをカップに注いだ。静佳たちがいるワンボックスカー内の温度は摂氏三度以下だろう。コーヒーからもうもうと湯気が立つ。 「これでもどう
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