かつてあれほどぼくの心のうちを占めた北海道とその幾多の町。津軽海峡を渡っていくときのあのときめきは、いったいどこに行ってしまったのだろうという思いは、今でもときおりぼくのなかにわだかまりとして残っている。三年まえに約束した北海道の写真集も、いまだに一枚のプリントすらできずにかつてのネガフィルムだけが山になって眠っている。いずれ作ることになるのだろうが、いま少し時間がかかりそうな気がする。まさか、青函連絡船が海峡から姿を消してしまったからだというわけにもいかないし、結局自分で自分にまだうまく説明がつかないのだ。 『犬の記憶 終章』朝日新聞社、1998年 東京・青山のラットホールギャラリーでは、写真家の森山大道個展「北海道」を開催中。30年前、森山大道が日々の生活へ一種の「肉離れ」を感じ、次第にここではないもう一つの場所へ逃れたいと感じるようになっていた頃。彼は北海道行きを決意し、札幌に3ヶ月