「黒いノート」の衝撃 今年の4月から1年間の予定でドイツ・ミュンヘンに滞在している。もっともその目的は一昔前のように、単純にこちらで何か最新の研究動向を仕入れて日本で紹介するといったものではない。 そもそも私の研究対象のハイデガーは日本のほうがよほど研究は盛んで、逆にドイツではほとんど関心の対象から外されているので、こちらで何かを学ぶという感じにはまったくならない。それでは留学の意味がないじゃないかと思われるかもしれないが、さすがに図書館の文献資料はこちらのほうが豊富だし、またドイツ社会におけるハイデガー受容のあり方を実感できるのも自分の研究にとっては非常に貴重な経験だ。 こちらでは夏学期以降、ミュンヘン大学で私を受け入れてくれたブフハイム教授のセミナーに毎週、参加してきた。その授業は学部、修士課程、博士課程の学生が論文のプランを発表して、指導教授や参加者のコメントを受けるといったものであ