「消しゴム貸して」よっくんは私にそう言った。 教室での席は遠かったのだけれど、よっくんは美術の時間になるといつも私に消しゴムを借りにくるのだ。 「ねえ、部長、消しゴム貸して」 「良いけど、私はよっくんの部活の部長じゃないよ」 「でも、部長に変わりないんだから部長でいいじゃん」 「まあ、そうだけどさ…」 背はあまり高くなく細身の坊主頭。見た目から野球部とすぐにわかるよっくんは、女子バレー部の部長であった私を名前ではなく「部長」と呼んでいた。 「部長、今日も消しゴム貸して」 「良いけど、なんでいつも持ってないのよ」 「まあ、いいじゃん。借りてくねー」 私の消しゴムをひょいっとつまみ、自分の席に戻っていく。しばらく経つと「ありがとー」と返しにくる。いつもそれの繰り返しだった。 ある日の学校帰り。友達と途中で別れ、1人で家までの道を歩いていた。すると、横道から自転車に乗ったよっくんがひょいっと現れ