秋田県能代(のしろ)市の日本海沿岸で昭和38年4月、男2人の遺体が見つかった。北朝鮮工作員が密入国を図った「第1次能代事件」で、現場を最初に調べた元刑事が報道機関の取材に初めて応じた。県内では工作員による拉致が疑われる失踪者もいる。「拉致は、今も続いている問題」-。元刑事は被害者の帰国を願い、事件を語り継ぐ決意だ。(中村翔樹、写真も) ■震える恐怖 秋田県北部の能代市中心街から南に約6キロ。日本海に面した「浅内(あさない)浜」に県警能代署の刑事だった伊藤京治さん(82)が到着したのは、4月1日午前4時ごろだった。 不審なゴムボートが漂着。そばに2体の死体らしいものがある。現場へ向かえ。 エープリルフールの未明に電話でたたき起こされ、からかわれていると思ったが相手の声は「嘘じゃない。これから全員に招集をかける!」とうわずっている。現実と悟ったが、「北朝鮮工作員の可能性もある」と付け加えられた