最近見なかったおたく男が久しぶりにある屋敷を訪れた。桜の花の盛りの時である。 「いやあ、東の方に行っていましたので」 「そうですか、まあ桜を見ながら酒でも酌み交わし、その東の方の話でもしてくださいよ」 年老いた屋敷の主(あるじ)はそう言った。屋敷に桜の樹が植えてあるのだ。この世界では珍しいことである。おたく男は現代日本で産まれ育ったのでやはり桜の花は好きであった。そしてまた「さくら」と名のつく作品やヒロイン、声優さんも好きなのであった。 それなのにこの世界では桜はあまり好まれていないのである。好まれていないどころか、「あだなり(浮気だ)」などと言われる始末である。桜の花がすぐに散ってしまうことから、すぐに気が変わる、一時的に気を引くだけで誠実さがないなどと思われているのであった。もちろん、異世界だから人の美的感覚や価値観が違うのは当然であるが、おたく男は少しさびしさを感じていた。 そんな中