「ウヘホムフイテ アールコォオゥオゥ」。坂本九が、あの独特の節回しで歌う『上を向いて歩こう』を初めて聞いたとき、作詞した永六輔さんは激怒する。初対面だった19歳の若者が、ふざけているとしか思えなかったからだ。 ▼作曲した中村八大が50年前の7月21日に開いた、リサイタルでの出来事だ。この歌がまもなく爆発的な反響を呼び、数年後には国内だけでなく、『スキヤキ』のタイトルで、米国でのヒットチャート1位に輝くとは、3人を含めて誰も想像すらしていない。 ▼音楽プロデューサーの佐藤剛さんによると、永さんの歌詞の内容は、悲しく切ない。いわば哀歌(エレジー)が、坂本九の声と「歌う力」によって希望と再生の歌となった。それが、世界的大ヒットの理由だという(『上を向いて歩こう』岩波書店)。 ▼坂本九の43年の生涯をたどる連載記事を書くために数年前、家族や友人を訪ね歩いたことがある。昭和60年の日航ジャンボ機墜落