全身が焼けただれた大量殺人犯は、どうやって一命を取り留めたのか。「なぜあんな人間の命を救うんだ」。これは、そんな声を受けながら、世界でも例のない難手術に挑んだ男たちの物語である。 あの犯人とは知らなかった 「最初に(治療の)依頼を受けたとき、私は患者があの犯人だとは知らなかったんです。『やけどが全身の90%に及んでいる患者さんがいる。診に来てもらえないか』という要請があり、他の医師とともに京都市内の病院に向かいました。 全身の90%に重度のやけどを負っている状態は、どんな熱傷(やけど)の専門家に聞いても『救命困難』という答えが返ってくると思います。私たちから見ても、過去に例のない手術だったと思います」 そう話すのは近畿大学医学部附属病院に所属する熱傷専門医のA氏。青葉真司容疑者(41歳)の担当医の一人だ。 36名が死亡し、33名が重軽傷を負った、京都アニメーション放火事件から、5ヵ月が経と