幸いなことに司法の権威機関は、どんな平凡な殺人事件を裁く場合でも、「証言」のみで満足することはない。彼等は何よりもまず法医学的鑑識を要求する。警察の技術班は犯行現場や凶器を検査し、科学班は解明の鍵となり得るすべての物件を研究所で分析する。証言というものの価値は、法医学の鑑識結果や物的事実が検証され、すべての事実関係が掌握されて初めて判断することができるのだ。 私個人について言えば、かれこれ半世紀にわたって、ナチスが使ったと言うあのむごたらしい「虐殺手段」であるガス室というものが、いったいどのような形をしたものだったのかを知りたいと思い続けてきている。その技術について、またその使用方法について紹介されることを、私は待ちあぐんできた。今日、ドイツのかつての強制収容所の幾つかは観光地として開かれている。そこではこれこそが「ナチスのガス室」だと言う一室が展示されているが、奇妙なことに、これほど断言