村上春樹の『職業としての小説家』を再読した。 おそらくこれで4回目くらいの読了だろう。なぜだか折に触れては読み返したくなる本だ。平易な文章で書かれており、村上の人柄が随所に滲み出ている。 小説家として歩んだ35年間のキャリアを振り返りながら、小説を書く上で大切にしていることや、そのスタイルを率直に語ってくれている。彼のファンにしたら堪らない内容だ。また小説を書くことに興味を持っている人たちにとっても、刺激を受けるものではないかと思う。 中でも私は、村上のデビュー作である『風の歌を聴け』を完成させるまでのエピソードが好きだ。自営業でバーを営む傍ら、村上は仕事終わりに夜な夜な小説を書いた。最初に書き上がったものは面白くなかったそうだ。 そのとき軽い失望感を抱いたのだが、村上は諦めず、別のアプローチを試みることにした。試行錯誤の末、彼は音楽的な響きを持つ「新しい文体」を獲得する。そしてその文体を