将棋の戦法は、大きく分けて二つある。序盤に大駒である飛車を動かさない「居飛車」、そして飛車を横に移動させる「振り飛車」だ。振り飛車は、大駒が盤上を飛び交う派手な展開がファンにも人気で、かつて棋界に君臨していた大山康晴十五世名人も得意としていた。 本当に振り飛車に未来はないのか ところが、近年では振り飛車党の受難の時代が続いている。現在8つあるタイトルを保持しているのは、いずれも居飛車党。名人への挑戦権を争う順位戦A級リーグに所属している棋士10人のうち、純粋な振り飛車党は1人しかいない。 理由の一つとして、コンピュータ将棋のレベルが飛躍的に上がる中で、「振り飛車は不利である」と半ば結論付けられている点がある。飛車を横に振っただけで、コンピュータによる形成判断を示す「評価値」は大幅に下がる。すると、コンピュータを研究に取り入れている棋士の多くにとって、振り飛車は端から選択肢にならないのだ。