本編は余が読書の余暇,随時に記す所にして,明治五年二月第一編を初として,同九年十一月第十七編を以て終り,発兌の全数,今日に至るまで凡七十万冊にして,その中初編は二十万冊に下らず。之に加るに前年は版権の法,厳ならずして,偽版の流行盛なりしことなれば,その数も亦十数万なるべし。仮に初編の真偽版本を合して二十二万冊とすれば,之を日本の人口三千五百万に比例して,国民百六十名の中一名は必ずこの書を読たる者なり。古来稀有の発兌にして,亦以て文学の急進の大勢を見るに足るべし。書中所記の論説は,随時急須の為にする所もあり,又遠く見る所もありて,怱々筆を下したるものなれば,毎編意味の甚だ近浅なるあらん,又迂闊なるが如きもあらん。今これを合して一本と為し,一時合本を通読するときは,或は前後の論脈,相通ぜざるに似たるものあるを覚うべしと雖も,少しく心を潜めてその文を外にしその意を玩味せば,論の主義に於ては決して