(講談社・2970円) 無我にたどりつく迷宮めぐり 愚かな行為は政治の世界から日常生活まで、いたるところで目にすることができる。にもかかわらず、これまで正面から論じられたことはほとんどない。それだけ語るのが難しいだろうが、この難題に挑戦する本はついに現れた。 検討の対象として、文学作品がおもに取り上げられたのは、フィクションの世界において愚かさはもっとも透明感のある形象として描き出されているからだ。 前半で論じられたのは、十九世紀のヨーロッパ文学や哲学において、愚行なるものがどのように思考され、あるいは表象されてきたかである。興味深いことに、愚行の表象を読み解いていくと、従来とまったく違った作家像が浮かび上がってきた。ボードレールの場合、比類なき修辞や寓意(ぐうい)によって表現されたのは近代人の絶望的な孤独だけではない。彼は俗衆の無知と愚昧を憎悪しながら、人間の生の根底に横たわっている愚行
![今週の本棚:張競・評 『愚行の賦』=四方田犬彦・著 | 毎日新聞](https://cdn-ak-scissors.b.st-hatena.com/image/square/b6718efcab471f0a8e501482a194f9c820039793/height=288;version=1;width=512/https%3A%2F%2Fcdn.mainichi.jp%2Fvol1%2F2020%2F10%2F31%2F20201031ddm015070121000p%2F0c8.jpg%3F1)