金井美恵子『文章教室』(asin:4309405754 asin:4828821406) じつにまあ意地の悪い小説だ(高橋源一郎でなくてもまず出てくる感想はそれだろう)。ただ、読んでいる一般の立場としては、登場人物にされて揶揄されることも、あるいは自分の書いた文章に矛先が向けられることもなく、高見の見物ができるわけで、ただただ面白かった。最後は筒井康隆かと思うほどエスカレートするので、可笑しくて仕方なかった。 「この書物のはじめから終りまで、ぼく自身がつくりあげた言葉は一つとして挿入されることなく、ひとたびこれを読んでしまうや、ここにある文句をうっかり洩らしてしまいはせぬかと恐しくなり、誰ももう口がきけなくなるようにしなければなりません」 これはフローベールが『紋切型辞典』について述べたとされる文言。この小説こそそれをみごとに果している。ちなみにこの文言は蓮實重彦『物語批判序説』(asin