午前3時になろうとしている。 ドジャー・スタジアムにはいまだに、数時間前の余韻がある。 目を閉じれば、イチローがゆっくりと打席に入り、打ち返した打球がスローモーションでセンターの芝生の上に落ちる様が鮮明に浮かぶ。 これまで何打席とイチローの打席を見てきたが、あれほどまでにしびれた8球はなかったかもしれない。 あの時、かすかに震えを感じていた。それは、寒さだけではなかったはず。打った瞬間、鳥肌が立った。 イチローはよく、「野球には流れがある」と話す。そしてそれは、「なかなか止められない」とも。 その視点からこの試合を俯瞰(ふかん)すれば、あの場面、日本は流れを手放しかけていた。 9回、2死までこぎ着けながら、ダルビッシュ有が同点タイムリーを許す。翌10回、日本はすかさず1死一、三塁のチャンスをつくったものの、代打の川崎宗則が打ち上げて、2死。ここでイチローが倒れていたら、その後