風景、音楽、匂い、そして言葉。出会ったときにはとるにたりないようなものが後になってみると頭にひっかかって離れないようなことがある。断片。欠片。前後の文脈や意味は失われ、独立してしまっている記憶だ。僕の場合、「車に潰され、タイヤが三角形に変形してしまった三輪車」であったり、「大学の美術サークルでよく見掛けた女の子の妙に赤いリップ」だったりする。今、僕の頭をかすめて離れようとしないのは君のあの言葉だ。東京、冬の夜。どこかの駅の構内で言われた言葉。時を経るごとに酸化して、変容して、僕を締め付けている。呪いのように。 総務のマヤちゃんと映画を観に行った。突然だった。昼前に連絡が来て、午後には映画館のチケット売り場前で待ち合わせをしていた。七夕≒浴衣という僕の淡い期待はあっけなく裏切られ、胸の部分に英語の文字がプリントされたオレンジ色のTシャツと膝下までしか丈のないジーンズにサンダルという姿でマヤち