ときちゃんはこのあいだ四十三歳になった。一年九ヶ月の無職期間を経て派遣社員として働いている。長々と休もうが満期を待たず辞めようが次の仕事があるのはときちゃんにそれなりの能力があるからで、ときちゃんはそのことをうっすらと自覚している。でもそれがずっと可能とは思わない。ときちゃんは世界のほとんどすべてのものが怖いし、良くしてくれる派遣会社だってその例外ではない。 ときちゃんは時折だめになる。今回の無職期間は最大の長さでだめだった。ときちゃんは仕事をしたくないのではない。ときちゃんはただ世界が恐ろしく、足がすくんで動けなくなるのだ。 ときちゃんの生活は質素だ。スーパーマーケットで旬の野菜と半額シールのついた肉を買い、豆腐や納豆や季節の魚を買い、一口しかないコンロで素朴な美味しいごはんを作る。服や靴はこぎれいだけれど、ぜんぶファストファッションのセール品で、それを長く使う。靴の数は三足で、歩けると