川崎市は人口約150万。東京都と横浜市に挟まれた位置にあり、北西から南東へと細長く連なる7つの区(麻生区/多摩区/宮前区/高津区/中原区/幸区/川崎区)からなる。川崎は北と南に分けて語られることが多い。北部と南部とではカラーがまったく異なるからだ。 ノンフィクションの文脈でいえば、かつて川崎の北部が日本中の注目を集めたことがあった。1980年11月29日、高津区の新興住宅地で、当時20歳だった浪人生が、両親を金属バットで撲殺したのだ。 写真家の藤原新也は、『東京漂流』(朝日文芸文庫)の中で、もし「80年代の日本を一発ワンショットで撮れ」と言われたら迷わずこの時の犯行に使われた金属バットを撮ると述べている。藤原が撮影した事件現場の家屋は、まるで不動産の広告写真のような明るさを帯びている。藤原はニュータウン特有の明るさの向こうに、虚ろな家族の姿を見て取ったのだ。 「川崎国」などと再び注目を浴び