サイモン・シン(Simon Singh)という名のインド系英国人をご存知だろうか。今年43歳になるノンフィクション作家で,数学の歴史的証明を題材にとった代表作「フェルマーの最終定理」は,数年前に世界的なベストセラーになった。著者のシン氏はともかく,この本なら知っているという読者は結構いるかもしれない。 フェルマーの最終定理とは『nが3以上の自然数のとき,xn+yn=zn を満たす自然数 x,y,z は存在しない』という一見単純なもの。17世紀のフランスの数学者フェルマーはこれを書籍の余白に書き残し,「この命題の真に驚くべき証明をもっているが,余白が狭すぎるので,ここに記すことはできない」という思わせぶりな言葉を残したまま世を去った。 それから3世紀にわたり,世界中の数学者たちが先を競って定理の証明に挑戦したが,ことごとく失敗に終わる。それをプリンストン大学の数学者アンドリュー・ワイルズ氏が