映画の魅力は細部に宿る。どうせ見るならより多くの発見を引き出し、よりお得に楽しみたい。「仕事と人生に効く 教養としての映画」(PHP研究所)の著者、映画研究者=批評家の伊藤弘了さんが、作品の隅々に目を凝らし、耳を澄ませて、その魅力を「よくばり」に読み解きます。 市野井雪(宮本信子)から「漫画描くの楽しい?」と問われた佐山うらら(芦田愛菜)は「あんまり楽しくはないです。自分の絵とか見ててつらいですし」と答えたあと、「でも、何かやるべきことをやっている感じがするので、悪くないです」と続ける。 再解釈、再創造された主人公・うらら「メタモルフォーゼの縁側」を見ていて私がもっとも共感を覚えたくだりである。というのも、これは映画批評家として私が毎回原稿に取り組むときの姿勢と同じだからである。自分の文才のなさを嫌というほど思い知らされながら文章を書くのは、あまり愉快なことではない。というか、正直に言って