はじめて自著を出版したのは41歳の時だったという早稲田大学国際教養学部の池田清彦教授。それから25年の間に何十冊もの本を書いた著者としての視点から、学問や思想に役に立つ本は、普通の商品としてみるべきではないと指摘する。 * * * 心血を注いで書いた本もあれば、一日語り下ろしただけで作った本もある。本を作るのに傾けた努力量と売れ行きは総じて反比例するので、マーケットのことだけ考えれば、心血を注いで本を書くのは愚か極まりない行為ということになる。それでも、書きたいことが溜まってくると、売れないと分かっている本の執筆に情熱を傾けた。 時々、アマゾンの書評などを見ていると、すべての本は商品だと勘違いしている人がいて唖然とする。たとえば、私の『構造主義科学論の冒険』を評して、「科学哲学を学びたくて読むのならば、この本は第一章だけ読めば良い。あとはソシュールの言語学が解らなければ解らない。